灼熱の昼にも弱い Mark2 !

 以前に 寒い朝に弱い Mark2 ? を書きましたが、今年の冬は電源を切ることがなかったため、低温問題には遭遇することなく夏を迎えました。
 去年の秋くらいから車載電源と車載ルーターで、車中24h連続測定も実施してるのです。


 車載連続測定を始めてから初の夏到来!


 厳密には若松ネットガイガー Mark2 純正でなく互換機とはなっておりますが、Mark2 一式をメーターパネル付近に鎮座させ、ガイガー管(J209)は汎用ガイガー検波ユニットを使ってプローブ状に分離させてました。
 ガイガー管(検波ユニット)の置き場は、ずばりダッシュボード上です。


 さてダッシュボードといえば、ライターを放置すると破裂や発火したりすることで有名な場所ですが、さすがに70℃近い温度になると検波ユニットも無傷ではいかないようです。


http://dl.ftrans.etr.jp/?9c466ef6d11b47deb14162edbc26eb5bfffe022e.jpg


 こちら、梅雨あけ初日の車載ガイガー測定結果です。
 〜8時が自宅車庫、9時すぎ〜19時が仕事先、前後で少し跳ねてる地点は常に同じような傾向を示す既知のプチスポット通過中ってところです。
 まぁそんな細かい変化よりも、昼一にスコーンと落ちている部分が目立つかと思いますが、ちょうどダッシュボードの上で直射日光に照らされていたうち、最も「うだる暑さ」だった時間帯にほぼ一致します。


 最近は車内に温度センサーを取り付けていないので推測とはなりますが、たぶん70℃くらいあったのではないでしょうか。
 真冬の「寒さに弱い」のときは全く昇圧できていないのですが、お昼休み(灼熱下の欠測中)に車載テスターでアノード電圧を計測すると 800V ほどしかありませんでしたので、原因は昇圧不足です。(J209では900V必要)
 ちなみに気温が下がると自然復帰します。


 そもそも60℃や70℃という環境で動き続ける必要なんてないと言われれば確かにないのですが、キャラクタ液晶は高温に弱いものの、ダッシュボード上の検波ユニットに載ってる部品の殆どは耐熱100〜125℃くらいなので、70℃くらいどうってことないはずじゃん!
 ということで足りない知識をネット検索で補いながら、なんとか原因を特定するに至りました。
 あわせて「寒さに弱い」の原因も同時に分かりました。


 現在の車載ガイガーは、セリアDCDC を破壊したとき 巻き添えで D/A ピンが死んでしまった mbed を利用しています。
 回路図はこんな感じ(アノード電圧900Vで固定仕様)


http://dl.ftrans.etr.jp/?c5d44991debf46d58ee91035d8af2ed3956227b9.png


 基本的に 汎用検波ユニット ですが、「いきなり昇圧」じゃなくて「じわじわ昇圧」させるべく、左端の抵抗とコンデンサの定数が 10kΩ→180kΩ、8.2kΩ→150kΩ、0.1μF→22μF に変更されています。(これで5秒くらいかけて900Vに達する)


 コンデンサダイオードが並んでる左側のオペアンプ〜74HCT14 の付近が、心臓部となる発振回路(デューティ比の自己調整回路)なのですが、なんと、ここに鎮座する@1円ばかりの 1N4148 の特性が全てに影響を与えてるようなのです!


http://dl.ftrans.etr.jp/?15b6873f57bd4e33bef681c0f843f77d6a399b19.png


という話を長々書きますので、どうぞよろしく。(オリジナルの若松ネットガイガー Mark2 でも同じです)
 まず先に昇圧のメカニズムから。


 74HCT14 の出力に MOSFET のゲートが繋がっていて(複数で並列になってるのは電流を稼ぐため)、ゲートに電圧をかけると MOSFET のドレインとソース間が導通状態になります。
 導通すると言ってもドレイン側にはインダクタ(コイル)があるので、すぐに MOSFET のドレインとソースとがショート状態になるのではなく、しばらくの間はコイルに電力(磁力)が蓄えられる時間になります。
 コンデンサは並列接続で電気を蓄えますが、インダクタは直列接続で電気を蓄えるんです!


 インダクタに適度な電力が蓄えられたところで、MOSFET のゲートの電圧を切って、いきなり非導通にしてやると、インダクタに貯まった電気は行き場所を失い、V=IR の I が一定のまま R→∞ になるため、結果的に V が上昇する、というのがチョッパー昇圧回路の基本でして、これを平滑させないままコッククロフトの初段に放り込むことで、あとはコッククロフトの段数の分だけ倍々で電圧が上がっていき、最終的に数百Vまで昇圧される、という風です。


 ゲートを ON してる時間がインダクタへの充電時間、ゲート OFF が放電時間となり、充電が長いほど放電が短いほど、電圧が上がります。


 74HCT14 はヒステリシス付きのインバーターですが、MOSFET のゲートに並列接続してある回路はヒステリシスの特性を生かすことなく、単純な反転回路+電流増幅という使われ方をしています。


 左側に孤立した 74HCT14 のインバーター回路の出力点が OFF のとき、それを入力として受け取る後段のインバーターが ON 出力し MOSFET が導通することでインダクタへ充電されます。
 インダクタ放電のサイクルは、この逆です。


 この ON/OFF の時間的な比率(割合)によって電圧の昇降度合いが変わるわけですが、「電圧が足りんぞ、もっと上げろ」「電圧たかすぎ、下げろ」っていう指令を出しているのが、74HCT14 の左側にあるオペアンプ


 なんだ、オペアンプって便利なやつじゃん、と一瞬は思うかも知れませんが、「今でちょうどいい」とは言うことはになく、常に「高すぎ!」「低すぎ!」のどちらかしか言わないので現実社会にオペアンプみたいな人間がいたら大変。


 その理解の上で、下の表。


http://dl.ftrans.etr.jp/?1b764a36f9fc4037aa44e8369ba055d63e445059.png

    オペアンプからの指令 インダクタ
(1) 昇圧指示/放電サイクル 電圧あげろ(4.5V) 放電
(2) 昇圧指示/充電サイクル 電圧あげろ(4.5V) 充電
(3) 降圧指示/放電サイクル 電圧さげろ(0V) 放電
(4) 降圧指示/充電サイクル 電圧さげろ(0V) 充電

※若松ネットガイガーでは5Vからショットキー経由して電源供給されているので5Vでなく4.5Vくらいで動いてます



 オペアンプから昇圧指令が来ず降圧指令の状態が続くと MOSFET は OFF の状態を維持し、「インダクタ放電」が進み、最終的に昇圧ゼロの方向に進みます。
(その過程で、電圧が下がったところでオペアンプが「電圧あげろ」を指令してくることを期待している)


 昇圧/降圧の指令はオペアンプから受けますが、放電サイクル/充電サイクルの切り替わりはオペアンプに関係なく、自発的に行われます。


 (1) 昇圧指示/放電サイクル を例にあげると、オペアンプからの昇圧指令の電気を受けて 100pF のコンデンサに充電が進みます。オペアンプとの間の 100kΩ がなければ一瞬で充電完了しますが、100kΩ の抵抗が邪魔をして、充電に時間がかかります。


 TP 地点の電圧が 74HCT14 の TH+(入力をOFF→ONと判断する閾値電圧)に上昇すると挙動が変わる(後述)のですが、コンデンサとしてはそーいうことを予期しないまま、オペアンプの昇圧指令である 4.5V を目指して充電が進行します。
 TH+ に達するまでの間は、74HCT14 は入力を OFF と判断し出力(12ピン)は ON(4.5V)を維持するので、1N4148 のカソードのほうが電圧が高くなり、このときのダイオードのカソードは NC(未接続) と等価です。


 74HCT14 のデータシートによれば、入力をOFF→ONと判断する閾値電圧 TH+ は 1.41V(Typ)となってますので、1.41V に達したところで 74HCT14 が入力を ON だと判断し出力が反転させた OFF(GND=0V)になります。
 そうなると 1N4148 のカソード側は GND 接続と等価になります。((2)の図)


 カソードが GND に落ちるとダイオードが導通になりますから、100pF のコンデンサは放電を開始しますが、ダイオードの Vf 分のゲタがあるので最終的な放電は GND を目指しません。
 Vf のほか、上流は 100kΩ を経由してオペアンプが昇圧指令の 4.5V を出していますので、100kΩ + 10kΩ + 1N4148 で均衡する最終電圧が 100pF の放電終了電圧になります。
http://dl.ftrans.etr.jp/?f49169991c2143be943de291d6ce74a8b54f73d2.png


 100pF のコンデンサが目指す放電終了電圧は、Vf は 25℃・85μA(後述0.85V÷10kΩ) 時でデータシートのグラフ読み 0.48V くらいとみて、(4.5V−0.48V)×10kΩ÷(100kΩ+10kΩ)+0.48V ≒ 0.845V と求まります。


 0.845V まで放電を目指しつつも、74HCT14 の TH-(入力をON→OFFと判断する閾値電圧)を下回ると、74HCT14 の挙動が変わり 1N4148 が非導通になり途中で放電は中断されます。((1) のフェーズに戻ります)
 入力をON→OFFと判断する閾値電圧 TH- は 0.85V(Typ)となってますので、1.41V から 0.845V まで放電を目指す 100pF のコンデンサにとっては、かなり時間のかかる話です。


※充電にせよ放電にせよコンデンサの充放電特性は現在電圧が目標電圧から遠いうちは急激に変化しつつも、近づくにつれてどんどん変化が緩慢になり、変化に必要な時間が多くかかるようになります。


 TP 点が、1.41V→0.85V(放電目標0.845V) に変化してる最中がインダクタへの充電時間、0.85V→1.41V(充電目標4.5V)が、インダクタの放電時間ということです。
 「目標電圧が遠いほど電圧変化が速い」ので、結果として「インダクタへの充電時間」のほうが「インダクタの放電時間」よりも長くなってます。
 一見すると100kΩ経由でコンデンサに充電(インダクタの放電)してるほうが10kΩ経由で放電(インダクタの充電)よりも時間がかかりそうに見えますが、それぞれ目標とする電圧が違うため逆になってます。


 ちなみにオペアンプから「降圧指令」がないまま「昇圧指令」のままで放置すると、若松ネットガイガーの回路定数のとき、初段で 4.5V から 150V くらいまで昇圧が進行してしまうようです。


 私の互換機(検波ユニット)だとコッククロフトが10段なので、各部品の耐圧が許せば 1500V くらいまで昇圧できそうなところ、オペアンプに「900V でお願い」という意味あいの基準電源 1.8V を与えていますので、200MΩ+400kΩ の分圧で得た電圧と比べてオペアンプが事細かに「電圧あげろ」「電圧さげろ」と指示を出すものだから、最大フル昇圧に達する以前に「降圧指令」を受け、結果として概ね適当な電圧を維持する、というカラクリです。
 もっとシンプルに言い換えると、ほっとけば 1500V くらいまで昇圧しちゃうところ、途中でブレーキをかけるのがオペアンプの仕事っていう理解でも構いません。
(ただしオペアンプに「力行」という概念はないので、ブレーキ踏んでるか、アクセル踏んでるか、そのどっちかです)


 なにぶん図を書くのを面倒がって文章だけで表現しようとしているので、私の国語力のなさも手伝ってうまく伝えられているか不安がよぎりますが・・・まぁそこら辺は想像力でカバーいただき・・・・・・


 ここまで書いて、ようやく最初の前振り「@1円ばかりの 1N4148 の特性が全てに影響を与えてるようなのです」につながります。


 インダクタからの放電時間を決定づけるのは、TP点が 0.85V→1.41V を遷移している間でして、4コマ図で言うところの左上(1) が等価回路で、まぁ C も R も若干の温度依存があるにせよ、低温だろうが高温だろうが態勢に大差はありません。


 問題はインダクタへの充電時間を決定づけるほうのほうでして、TP点が 1.41V→0.85V に遷移しているとき、4コマ図でいうところの右上(2)の等価回路になりますが、その回路のとおり 1N4148 なるダイオードが絡んでます。
 このダイオードというやつが曲者でして、温度によって Vf が物凄い変わるんですよ。


http://dl.ftrans.etr.jp/?bd7f37b95f57423bab3c0ce7cda6ff1f68dc8e72.png


 なんかグラフが見にくいですが、65℃時で Vf=0.43V? くらいになるそうじゃないですか。
 TP点 が 1.41V→0.85V に遷移中の目標放電電圧は (4.5V−0.43V)×10kΩ÷(100kΩ+10kΩ)+0.43V ≒ 0.8V となり、Vf=0.48V 時の放電目標0.845Vと比べて、「放電目標が遠く」なります。
 目標が遠いほど変化速度が速くなるので、1.41V から放電を開始して目標半ばの0.85Vまで達するのに要する時間は、ダイオードが Vf=0.48V のときより Vf=0.43V のときのほうが短い(早い時間で到達する)のです。


 0.85V→1.41V の所要時間は気温にかかわらず一定ながらも、1.41V→0.85V の時間は気温によって変動する、しかも気温が高くなればなるほど Vf は小さくなるので時間が短くなる、1.41V→0.85V の時間がインダクタへの充電時間なので、充電時間が短くなることで昇圧パワーも減ってしまう・・・という風で、高温下で昇圧不良に陥っているようなのです。


 この 1N4148 を試しに Vf の低い BAT43 という Vf=0.26〜0.33V 品に交換したところ、最大600Vまでしか電圧が上がらなくなりました。
 Vf が小さくなったことでインダクタへの充電時間が更に短くなってしまい、600V にしかなりません。



 これで高温時の Vf 低下が昇圧不良に繋がるカラクリが分かりましたが、では、なぜ低温時にも昇圧不良になるのか?
 同様に考察してみたいと思います。


 先のダイオードの温度による Vf 変化のグラフには、25℃と-45℃の間に線がありませんが、仮に氷点下5℃か10℃に下がって Vf=0.52V くらいになったと仮定してみましょうか。
 同じ計算式を使って、1.41V→0.85V に遷移中の目標放電電圧を求めてみると (4.5V−0.52V)×10kΩ÷(100kΩ+10kΩ)+0.52V ≒ 0.882V と出ました。


 え? 目標放電電圧 0.882V !?
 放電が 0.85V まで進むまで 74HCT14 の動きは変化せず、 MOSFET は ON のままインダクタへの充電を継続しますが、目標 0.882V だと、どんだけ時間が経っても 0.85V にならないじゃないですか!
 いくらインダクタを充電し続けても放電しないと昇圧はされないので、オペアンプは「電圧が足りんぞ」と昇圧指示のまま。


 このまま時間が経ちインダクターが完全充電(磁気飽和)すると、インダクターは普通の導線と同じになります。
 はい目出度く(笑)、MOSFET のドレインとソースとが直結ショートです。
 ポリスイッチか何かがないと、いずれ焼損します。


 じゃあ、許される Vf の上限は幾らなんだといえば
   (4.5V−Vf)×10kΩ÷(100kΩ+10kΩ)+Vf < 0.85V
の式を解いて、Vf < 0.485V


 74HCT14 の TH+ TH- にもバラツキがあるおかげで、0.485V を僅かに越える Vf でも実際には動作してますが、理論値では、Vf > 0.485V に上昇する低温で昇圧不能に陥り、0.485V 未満であれば昇圧不能にはならないものの、Vf の値が 0.485V から離れれば離れるほど、インダクタの充電時間が足りなくなり、一定の限度を超えると昇圧不足に陥るという・・・
 物凄いギリギリの定数で動作している模様です。



 低温時には電源を高め電圧にすることで動くようになりました。
 どうした具合なのでしょう? 同様に解いてみます。


 74HCT14 の TH+ TH- は電源電圧によって変動し、データシートには 5V 時のパラメータは記載ありませんが、4.5V と 5.5V の中間だろうと仮定すると 5V 時の TH- は 0.92V だろうと推測されます。


 許容 Vf の上限を求める計算式に代入してみますと
   (5−Vf)×10kΩ÷(100kΩ+10kΩ)+Vf < 0.92
の式を解いて、Vf < 0.512V


 理論上の Vf 上限が 0.485V から 0.512V になったため、低温時に少々 Vf が上がってただちに昇圧不能に陥ることがなくなったということです。
 ちなみに更に電圧をかけて 5.5V にしてやると Vf の上限は 0.539V になります。


 上の方で判明した「Vf 上限を越えるとただちに昇圧不能になるが、Vf 上限から低すぎても昇圧不足に陥る」という特性により、厳冬期仕様のため電源を高めに改造した若松ネットガイガーは、改造前に比べて高温耐性が落ちているのではないな?と思われます。


 高温環境下でも昇圧不足にならないようにするためには、Vf 上限を下げる必要があります。
 74HCT14 は 4V での動作保証をしていませんが、仮に 4V 時に TH- が 0.78V になると仮定して先の計算式で上限 Vf を算出すると、Vf < 0.458V と出ます。


 (理論値で) Vf が 0.458V を越えると昇圧不能になりますが、標準状態よりも Vf上限が 0.03V 下がってますので、高温時の Vf 低下でも「Vf 上限から離れすぎること」が減り安定して昇圧動作をしてくれそうな気がします。
 が、しかし、この状態だと、低温時の Vf 上昇で、「ただちに昇圧不能」に陥りますから、これはこれで気をつけないといけません。


 74HCT14 の TH- の電源電圧依存を TH- = 0.22 + 0.14 × V の式で表現し、先の計算式に代入して解いていくと、電源とVfとの関係は、Vf < 0.242 + 0.054 × V という式に収束します。


 電源ラインに挿入されたショットキーは、1N4148 の Vf や温度特性とは完全には一致しませんが、低温で Vf が上がり、高温で Vf が下がるという傾向は同じです。
 低温時には電源電圧を高めに、高温時には低めに、それぞれ補正すれば安定動作に近づいていくのですが、あいにく電源ラインのショットキーの温度による作用は、全く逆方向。


 高温ほど Vf が下がり供給電圧が上がって、より条件が悪化するというジレンマ・・・


 とりあえずのところで、電源ラインのショットキーによる電圧降下を見込んで、夏は4.5V供給、冬は5.5V供給、で切り替えて使えば良さそうな気がしますが、夏から冬に切り替え忘れると、場合によっては MOSFET が焼け焦げるという・・・ということで自動化を目論むとなると、1N4148 の温度補償が -2mV/℃ くらいとして、こいつを電源の電圧で逆に補償してやろうとすれば、-2mV ÷0.054) = -37mV/℃ くらいの定数で、電源電圧を可変させる工夫をすればいいのか?


 と、ここまで書いたところで、電源電圧を弄って温度補償するのは普通じゃない気がしてきたので、この辺で〜