手動式 MPPT 充電器
太陽光発電では当たり前とも言われる MPPT ってものを理解(自作)しようとネット検索してますと、必ずと言っていいほどマイコンで PWM する回路が出てきます。
なんで最終的にそんな回路が必要になってくるのかイマイチ理解できていなかったのですが、突然シンプルに MPPT なるものを理解した気がするので、忘れないうちに書き留めておこうと思いました。
MPPT とはハードウェアではなく、ソフトウェア(アルゴリズム)だ
まず、この手の話題に必ず出てくる I-V特性(IV曲線) の利用の仕方から。
一般には、横軸に電圧・縦軸に電流 というグラフが用いられますが、横軸は起因(トリガー)、縦軸はその結果、という先入観で見てしまうとチンプンカンプンに陥ってしまいます。
↓な風に 90°回転+垂直反転 させてみます。
ちなみに、この図の元は こちら からの無断引用です。。
理解する上での大前提
消費させた電気=発電された電気
多く発電したいなら、多く消費させないといけない
①消費ゼロからスタート
②消費させる電気(電流)を増やしていくとパネルの電圧は下がっていく
③使った電流量×その時の電圧 の計算結果が発電量で、最大となる場所を探し、その消費を維持する
「消費させる電気を増やしていく」と簡単に書いてますが、普通は電球にせよモーターにせよ、消費電力とは負荷が消費した結果的な電力量であって、第3者が制御できる類のものでないように錯覚してしまいますが、確かにそーいう電化製品であればそうですが、その負荷が「満充電じゃないバッテリー」であれば、微量充電〜フル充電 まで、「どんだけ電気を食わせるか」をコントロールできます。
「バッテリーに食わせる電気量の制御」は具体的には、バッテリーにかける電圧で決まります。
開放電圧11.5Vのバッテリーであれば、11.8Vをかけることで (11.8V-11.5V)÷電池の内部抵抗 の分だけ電気を吸い込んでくれます。(パネルから見たら消費)
12V をかければ 0.5V÷電池の内部抵抗 です。(実際にはもうすこし細かい計算になりますが、ザックリ論で書いてます)
DCDCコンバータを用いた上でバッテリーにかける電圧を変化させてやることで、「消費する電気を増やしていく」ことも「消費する電気を減らしていく」ことも、実に簡単にできてしまうのです。
パネル電圧などというものは電気を使った後の結果にすぎません。
(ちょっと日本語として変ですが、そんなニュアンスくらいに思ったほうが理解しやすいと思われ)
という前置きを分かってもらって、自称「手動式 MPPT 充電器」の回路図を見てください。
秋月のDCDCコンバータ HRD12003E を用いた手動式 MPPT 充電器の回路例です。
5A DC-DC コンバーター制御ICセット でも一緒の話ですが、どちらにせよ概念的な話であって後述しますとおり、この回路では実用にはならないので・・・
パネル内に逆流防止ダイオードが最初から入ってるタイプでしたら、左側のダイオードは不要です。
かなり緻密な回転操作を要求されますので、VR は 多回転式 がいいでしょう。
「手動」ということで、HRD12003E の入力側(パネル)と出力側(鉛蓄電池)と双方に電圧計と電流計を付けます。
さて、この手動式 MPPT 充電器の使い方ですが
- SW を OFF にする
- VR を 左一杯に回して出力電圧を最低にする
- SW を ON にする(電圧は出力<鉛蓄電池なので電流は流れない)
- 電流計が動き始めるまで(出力>鉛蓄電池になるまで) VR を右へ回す
- VR の位置(回転角度)と、そのときの入力側の電力値(電圧値×電流値)をメモる
- VR を僅かずつ右へ回す(少し動かす度に 5. へ)
- 右へ回しすぎて電力値が降下し始めたら電力が最大だった場所まで VR を戻す → その位置が MPP
- 出力側の電圧値および電流値が鉛蓄電池の充電仕様を超えそうになったらそれ以上は回さない(超えたら左に戻す)
- 時々 1. に戻る。
日照変化やバッテリーの充電率によって「最適な VR の位置」は刻一刻と変わります。
太陽の前を雲が通過するとパネルの発電能力が落ちて電圧降下を引き起こしますので、VR を左に戻し電力が回復するところまで戻します。
雲が通り過ぎれば発電能力が回復するので、VR を右に回してピーク点を探り直します。
充電器の近くで待機しながら、時々 VR を調整する作業をし続けば「手動式 MPPT 充電作業」が出来ます。
かなーり退屈な作業ですよね。
VR を回す調整作業をマイコンにやらせて自動化してしまえ、というのが巷で言われる MPPT 充電器なのです。
具体的には・・・
電圧計と電流計の針の位置をマイコンに繋げたシリアルカメラが撮影、8KBほどのチープなメモリー空間でも動く画像処理プログラムを作り、針が指してる数値を読み取って電圧値と電流値とを求め、VR の回転操作は軸にステッピングモーターを取り付けてマイコンからモーターに対して回転角を指示します。
ほら、簡単でしょ?
って、作れるかよ!
と一人でボケて突っ込んでみても全く面白くないですが、殆どの人は電流検知用の低Ω抵抗を回路に直列に挿入し、その両端の僅かな電圧差を測って電流値を計算で求め、電圧は分圧してそのままをA/Dピンに引き込み、DC-DCコントローラICが内部でやってる PWM デューティ比の可変制御による MOSFET のゲートカチカチ可変電圧生成をマイコンを使って同じことをやらせるべく回路を起こし、マイコンで動くソフトを作る、という方法に逃げ込むわけです。
必要なスキル
- マイコンで電圧と電流とを検知すること
- マイコン制御式の可変電圧スイッチング電源を作ること
- 出力電圧をテキトーに可変させてみてパネルが音を上げないギリギリの地点を探るソフト作り
- パネル側の電圧変化は日照 or 充電率の変化の結果だと見なし、ある程度変動したらギリギリ地点を探り直す処理
- バッテリーの充電限界(最大電圧/最大電流)をわきまえた制御
(補足)
上に書いた方法は麓(消費させる電流0A)から歩き始めて最大地点を探し当てる「山登り法」と呼ばれる方式ですが、登山でも偽ピークなるものがあるとおり、パネル界の山登りでも日照具合によっては偽ピークが出現する可能性があります。
ここが頂上だと思って辿り着いたら奥に更に高い頂が見えた、ということが3〜4回繰り返される南ア・赤石岳ほどの無慈悲な仕打ちはないとは思いますが・・・
地形図も持たずにガスガスの悪天候の中を歩き出すマイコン登山家になった気分で真の頂上を探し求め、そこに立つ・・・それこそが MPPT のソフトを作る人のロマン?なのでありまーす。