まじめな過放電防止回路(温度補償)

 去年、過放電防止つき車載電源の製作 ってものを書いたのですが、先のブログ末尾で赤字で注記したとおり、あの回路は気温変動による影響が大きく、夏場と冬場とで検出しきい値が10〜15%も(寒暖の差が大きい地域はもっと)変わってしまうという、まさに「なんちゃって過放電防止回路」でした。


 カットオフ電圧のしきい値の判定はトランジスタの VBE 頼りという実にシンプルなもの。
 トランジスタMOSFET も汎用品で大丈夫ということもあって材料費100円前後しかかからないのですが、あと100円ほど奮発して「まじめな」過放電防止回路を作ってみました。
 しっかり温度補償しますので、リチウムイオンとか扱いがシビアなものにも使えます。


 前回と同様に自己電源をも遮断して、過放電検知後に自己消費で放電が進行するのを防ぐ仕組みになってます。
(その代償として物理的な起動スイッチが必要ですが)
 また、Pch MOSFET を使うことで GND 共通にしてますので、車体アースの人にも便利に使えるのではないのかな、と。


(追記)電圧が回復したら自動起動するバージョンの回路図も 後ろに追記しました。 (起動電圧確認のため自己消費あり)


http://dl.ftrans.etr.jp/?5c2367354e104878912c603935ecbc5943639d56.png


 前回の回路に比べて M51957B が増えた程度のものでして、温度補償ったって、こいつがやってくれるだけの話。
 動作電圧は 2〜17V(検出しきい電圧は〜15V) と、リチウムイオン電池から鉛蓄電池まで広くカバーします。


 ただし下限電圧(2V〜)のほうは、リレー的に用いる MOSFET の VGS(th) に依存しますので、NiMH 2本とか低電圧で使うときには、VGS(th) が小さな MOSFET を選定する必要があります。
 VGS(th) に注意するほかは、流す ID に耐えるエンハンスメントな Pch MOSFET を選定しさえすれば基本的には何でもOK
 (更に欲を言えば RDS が小さい値のほうが損失が少ないのでGOOD)


 今回の回路の心臓部品たる M51957B を秋月で買い求める と、もれなく SOP パッケージでやってきます。
 初めて扱う人だと小ささにギョってするかと思いますが、1.27mm ピッチの半田付けに奮闘しているうちに、最初は豆粒にしか見えなかった IRLML6402 ですらピン間隔が異様に広く見えてくるはず。。
 そうなればしめたもので、さほど電流を流さないのであれば、MOSFET として 2SJ334 とかじゃなくて 表面実装品な IRLML6402DMG3415U みたいなのを選択してしまうという手もありますよ。VGS(th) も RDS も十分に低いですし。


 回路の右側、多回転VR(縦型横型)で分圧させて M51957B の入力に突っ込んでいるところは、しきい値とする電圧が決まっていれば精密抵抗の組み合わせでキッチリ作り込んでも構いませんし、だいたいの電圧レンジは決まってて微調整する程度であれば、前回と同様に上下に固定抵抗を挿入してVRを安い半固定にしてしまってもいいです。
 全域カバーさせたいときは多回転を使いますが、全域カバーしたいのに多回転を惜しんで単純に安い半固定に置き換えただけだと、もれなく調整作業で死ねますから要注意!
 

 ということで調整の方法ですが、カットオフさせたい電圧が出る可変電源を入力側につなぎ、VRを右一杯(中間が+に近づく方向に)にして START スイッチを押します。
 テスターで出力側を監視しつつ、VRを左へジリジリ回していくと、ある瞬間のところでテスターの電圧が0に落ち込むはずなので、そこで止めます。
 勢いよく回し過ぎちゃったなぁ〜と思えば、右へ戻し START ボタンを押してやりなおし。満足いくまで追い込んで下さい。
 出力させながら電圧を可変できる可変電源であれば、下げていって希望するところでスコンと落ちるか確認します。


 可変電源を持っていない人は、VRの中間(M51957Bへの入力)が 1.25V を下回った瞬間に電流カットが作動しはじめることから逆算して、両側の抵抗比を求めてテスターで抵抗値を測りつつ VR を合わせて下さい。
例) 10V でカットオフさせたいときには、10÷1.25=8 から 上:下=7:1 の割合になる場所にセットします。
(もしくは多回転VRの代わりに、計算で求めた抵抗比になるような値の固定抵抗を上下に入れます)


 分圧してるだけなので、VRの付近は10k〜100kΩくらいの適当な値で構いません。
 リチウムイオン電池などで低電圧で使う場合は 100kΩ だと電流が微量すぎて、周辺ノイズを拾いやすくなります。
 たいていは大丈夫ですが、ちょっと心配だなぁ〜と思ったら、スカっと 10kΩ くらいにしちゃって下さい。
 無駄になる電気が 100kΩ の 10倍に増えますが、それとて 3V時で 0.3mA (0.9mW) です。


 その他のプルアップぽい仕事やってる抵抗も 10k〜100kΩ くらいのあり合わせ品で構いません。
 先ほどと同じ理由で低電圧のときには 100kΩ→10k〜20kΩ くらいに小さくしてやると安定性(ノイズ耐性)が増します。


 さり気なく 2SC1815 のベース側に挿入した 1N4148 という1本2円の汎用ダイオードが実はとても重要な働きをしてます。
 「保護か何かで入れてる程度だろ」って言って省略すると正しく動かなくなります。


 過放電を検知して MOSFET を閉じると自身に供給される電力も失うことになるのですが、M51957B の電圧が動作仕様を大きく下回る電圧になったとき(0.8Vを切ったときとか)、出力を GND に引っ張るパワーすらなく、もれなくオープン(電圧OKと同じ状態)になってしまいます。
 そうなると、トランジスタMOSFET に起動命令を発して複電してしまうのですが、1N4148 を使って出力に(トランジスタの入力に) -0.6V のハンデを背負わせることで、M51957B に正常な動作を期待できない電圧域のときにトランジスタが意図せず ON (MOSFET も ON)になることを防ぐ効能があります。




 どうしても 2mm 以下は嫌ってひとは、2.54mm ピッチのが RSオンライン とかで売ってますけど、そもそも秋月以外で買うなら、いっそ M51958B をポチってしまったほうが遙かに幸せになります。



http://dl.ftrans.etr.jp/?891ffec90fef45499f0ed2f334715091f093ce32.png


 M51957B と比較して挙動が反対(しきい値以下でオープン出力)になるので、先の M51957B の回路の時の 2SC1815 が不要になり、MOSFET のゲートに直結できるようになります。
(追記)実際に M51958B を購入して組んでみましたら、ゲート直結だとプルアップ100kΩは大きすぎました。20kΩくらいが適値のようです。


 また、M51957B と反対に低電圧時にオープンになる仕様の M51958B は低電圧時に意図しない挙動を起こさないので、1N4148 のダイオードも不要です。





追記(2012/11/09)
 上で紹介しました過放電防止回路は、過放電検出後に自己消費で過放電が進行することがないものですが、起動に物理スイッチが必要です。
 「多少の自己消費は許容できるからスイッチないほうがいい」って人もいるかと思いますので、参考までに一定電圧を回復したら自動起動する回路図例も挙げておきます。


 使用する電圧域で動作する基準電源とオペアンプでヒステリシス付けて MOSFET 駆動させる方法もありますが、私の回路図を見て秋月で M51957B 買った人は、もれなく3個あまってると思うので、こいつを利用してみることにします。
 RSオンラインで M51958B 買った人は最小注文単位が5個なので4個あまってるでしょうし。。

M51957Bの人 M51958Bの人
http://dl.ftrans.etr.jp/?2fde67e44b6b4fbc94f1f4cf8ff13b74ce3dfd9b.png http://dl.ftrans.etr.jp/?f2f3ed06ee5e4637a90b22f7558bc9749f7f76d2.png

(どちらもクリックすると大きく見えます)

 って勿体ぶって出すわりには、過放電検出部分と全く同じですが・・・


 左側の可変抵抗を同じように調整して起動する電圧を決定しますが、当たり前ですが、過放電検知電圧よりも大きな電圧を指定しましょう。
 指定する電圧差が僅かしかないと、過放電検知→無負荷→電圧復活→自動起動→・・・のループが始まります。


 -0.6V の下駄ダイオード自動起動のほうは必要ないので外しました。
 過放電防止部分は自己への供給電力も遮断されるため、いやがおうでも1V未満になりますが、自動起動部は常に電力供給を受けていますし、その供給電圧が 1V 付近になったら、どうせ MOSFET は閉まらないので、もはや野となれ山となれ〜の状態ですから。
(超低電圧時にきっちり閉めたい人は GND 側に Nch MOSFET いれた上下反対の回路にしてください)


 あと M5195x の DELAY ピンに繋げるコンデンサを大きくしてあります。
 3.3μF だと電圧上昇してから1秒後に起動、という風になります。
 3秒後に起動なら 10μF くらいに変更してやってくださいな。


追記(2012/11/17)
 どう見ても M51958B を買ったほうが幸せになれるので、 RSオンラインで ポチりました。
 文中に追記として書き加えましたが、想像で書いた回路は一部で抵抗値が不適切でしたけど・・・
 たぶんデータシートの中にオープン出力の内部インピーダンスの記述があったのでしょうけど、データシートなんて困ったときしか読まないので・・・


 こいつは 1.25V な基準電源を内蔵した1回路コンパレータと見なすことも出来るので、いろんなことに使えそうな、かなり便利な部品ですねー


※ DELAY ピンのコンデンサは作動電圧の調整が済んでから取り付けた方がいいです。
 コンデンサをつけると起動を遅らせることができますが、調整中はかなりイライラします。
 もしくは、ジャンパーピンを経由させ、ピンを抜くことで「コンデンサなし」と同じ状態を作り出すとか


追記(2013/02/11)
セリアの昇圧型DCDC「充電用電池BOX USBポート付き」に本回路を組み合わせ、過放電防止型にする記事を書きました。


追記(2014/07/01)
 本稿の過放電防止回路は鉛蓄電池1個までを対象にしており、独立型太陽光発電で用いられる機会の多い 2直列(24V)/4直列(48V) のケースには対応していません。
(降圧回路を M51957B/M51958B それぞれに準備する必要がある)


 本稿ほどには自由に閾値電圧の調整が出来ないものの、自動復帰型の過放電防止回路を M51957B 1つで作る回路例を 太陽光発電 に UPS を華麗に組み合わせる (応用) の中でご紹介させていただいてます。
 M51957B が1つで済みますので、24V/48V 系の人であっても降圧回路は1つで済みますので、ご参考くださいませ。


追記(2014/12/07)
 この記事の回路例では、負荷への給電を MOSFET で直接スイッチしていますが、負荷にインバーターを使う場合、インバーターの機種によっては給電 ON/OFF による制御を禁止しているものがあり、そういう場合、この記事の回路は不適切です。
 インバーターのスイッチ部から配線を取り出して、安全にインバーターを制御する記事「過放電を防止しつつインバーター給電」を書きました。


 インバーターのような大電流を制御する際、過放電防止回路が電圧降下の影響を受けてしまう場合の対策例も書きましたので併せて参考にしてください。


追記(2016/12/10)
 リチウムイオン充電池 または ニッケル水素充電池×3直列 に特化した、シンプルな過放電防止回路を記事にしました。
 もちろんハイサイド動作です。興味ある方は こちら をどうぞ


追記(2017/10/08)
 M51958B の入手が困難になってきたため、改めて M51957B を用いた自動回復型なシンプル過放電防止回路 という風で書き直しました。